大田区立郷土博物館特別展 川瀬巴水

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 大田区立郷土博物館で開催の特別展「川瀬巴水(かわせはすい) 旅情詩人と呼ばれた版画絵師 -没後50年-」を見学した。川瀬巴水は、大正から昭和にかけて版画の興隆をもたらした絵師である。彼は「旅情詩人」と呼ばれた通り、生涯を通じて日本中を旅し、各地の風景を版画にして残している。また、生涯の大半を現在の大田区内にあたる地域で過ごし、付近の風景を描いたことでも知られている。今回の没後五十年を期した展覧会は、そのゆかりの地で開かれている。

 私がこの川瀬巴水の作品に初めて出会ったのは、東京国立博物館の展示においてである。何かの特別展を見た後、ついでに平常展を見た折、ふと目に付いたのが彼の風景画であった。近代的な風景が、まるで安藤広重の浮世絵のような画風で描かれているところに新鮮さがあったためである。

 そのときに作者の名前も確認し、見知っていたが、しばらくの間忘れていた。それが二年前の年末に浅草を訪れたとき、雑貨屋で偶然「川瀬巴水カレンダー」を見つけたことで思い出された。以来、川瀬巴水の風景画の魅力に引き込まれ、画集を購入したり「川瀬巴水カレンダー」を毎年愛用したりしている。

 今回、その川瀬巴水の作品が身近な博物館で見られるとあって、非常に楽しみにして博物館を訪れた。

 この特別展では、前期・後期合わせて約三百点もの作品や資料を見ることができた。そのほとんどが風景の版画である。川瀬巴水の風景画を見ていくとまず、江戸時代の浮世絵と同じ画風ながら、近代の風景が描かれているところに楽しさというか、面白さを感じる。風景の中に、電線や自動車、自転車、近代建築などが出てきている。しかしそれらは、まったく違和感なく景色の中に溶け込んでいる。ともすれば美しい「風景」にとっては邪魔になりそうだが、そんなことはなく、全体が一つの風景として自然に見ることができてしまう。それが余計に面白さを引き立ててくれるように思う。

 それから、版画ならではの技法も巧みだ。特に目に付くのは光と影の表現だ。朝日のほの温かさ、日陰の涼やかさ、それらが画から伝わってくる。空の色の移り変わりも実にうまく表現している。また、同じ光を描いていても、日光と灯火では印象がまるで違っている。こうした表現が特に際立ってくるのが夕景の描写である。川瀬巴水の作品には夕景を描いたものが多く、夕焼けに染まる空や黄昏時の表現などは秀逸である。思わず画に引き込まれるものがある。それから、夜の帳の表現も優れている。一色ではない夜の闇が見事に表現されている。私などはカメラで夜景を撮るのにえらい苦労しているから、夜を巧く表現できることが羨ましく思えてきた。

 カメラといえば、写真でいうアングルの巧みさもある。構図が変わっている。風景の切り取り方がうまいなあと感心させられる。風景写真を撮るときの参考にもなると思う。

 表現技法の中ではほかに、水面の表し方が絶妙だ。水面のゆらゆらしたさま、ぬめっとしたさま、波立って激しく揺れるさまがよく表れている。また、ここでも光と影の表し方が巧いと思うのは、水面に映った建物の表現である。ゆらめく様子がリアルに描かれている。

 リアルに感じられるものとしては、雨粒や雪の降るさまも挙げられる。これらも写真のごとく、一瞬を切り取ったように描写されている。雪の景色の作品もまた多く、雪の重みや表面の柔らかさも、白単色なのによく伝わってくる。それから、鬼気迫るような雪空の灰色も印象的である。

 川瀬巴水は現在の大田区に住んだこともあって、荏原の風景も描いている。だからその作品は、私の荏原をめぐる旅に無縁ではないと言える。田園の中に松林のある池上、だたっ広い川原の向こうに深い森の見える矢口、大きな松の木に月がかかった馬込など、今では想像のつかないようなかつての荏原が生き生きと描かれている。そんな昔の荏原にも触れられる特別展であった。



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by ebara_explorer | 2007-11-21 22:53 | その他
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