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祐天寺

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 祐天寺は、東急東横線の駅名としてあまりにも良く知っているが、実際に寺を訪れたことは今まで一度もなかった。寺は駅の東、駒沢通りに面したところにある。

 去る10月21日、目黒区教育委員会の主催する「区内文化財めぐり」に参加した。この日のコースは中目黒地域をめぐるもので、そのスタート地点が祐天寺であった。初めて訪れる祐天寺は落ち着いた印象で、仁王門やその他の堂宇がどっしりと構えていた。

 文化財めぐりは、教育委員会の方の同行のもと、地元の郷土史家の先生の案内によって進められた。集合後、まず祐天寺の境内を案内していただいた。

 祐天寺は、江戸時代中期の享保三年(1718)に、祐天上人を開山として、その弟子の祐海上人が創建した寺である。祐天上人は非常に優秀な僧だったそうで、東大寺の再建や鎌倉大仏の中興に貢献しているという。「南無阿弥陀仏」の名号を何枚も書いて配布し、資金を集めたそうだ。それで庶民の評判も高く、やがては徳川家も庇護するようになったという。現存する仁王門や阿弥陀堂は、徳川五代将軍綱吉の養女竹姫寄進のものとのことであった。
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 仁王門には運慶作と伝える持国天・増長天があるとのことだったが、さすがに運慶作というのはにわかに信じがたかった。また、門の軒下には十二支の動物が彫られているのを先生が教えてくださった。
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 阿弥陀堂といえば中世建築でよく目にしているが、ここの阿弥陀堂も中世のものと同様、方三間の四面堂で形はよかった。額に書かれた「阿弥陀堂」という立派な文字は祐海上人の筆になるという。

 次に見たのは地蔵堂である。堂の前に小さな門があり、その天井には火消しのまといが彫られていた。
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 まといは堂内の天井にも描かれているという。祐天寺は江戸の町火消しと関わりが深いそうだ。というのも、火消しの組織の原型を作ったのが祐天上人とされているからである。祐天上人が増上寺の大僧上にもなったが、その頃増上寺は火災が大変多かったそうだ。そこで祐天上人は、寺内に火消しの組織を確立し、防火を行った。これが町奉行大岡忠相によって江戸の町にも応用され、町火消しができたという。そういう縁があるので、今でも正月の出初式のときには、消防団がお参りに来るのだと、郷土史家の先生はおっしゃっていた。

 地蔵堂の裏に回ると「南無阿弥陀仏」の名号の刻まれた大きな碑があった。百万遍供養塔というそうだ。寄進をした七百名もの名前が刻まれているという。祐天上人が亡くなって百年ほどして建てられたそうだが、それでもなお多くの帰依を集めたことがわかる。
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 その傍らには海難供養碑があった。海で遭難した人たちを供養する碑で、白子組という木綿問屋と、灘目という灘の酒樽問屋の二つが並んでいる。海から離れた目黒のこの地に海難供養の碑があることには違和感を覚えるが、郷土史家の先生によると、供養碑の発起人の一人が祐天寺を振興する人だったのではないかとのことであった。
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 地蔵堂から参道に戻り、一番奥の本堂を見た。明治三十一年(1898)の再建だという。再建の際は、境内に植えられていた杉の木を使用したそうだ。この杉の木は、祐海上人が万一のときのために植えさせたいたものだという。先見の明がある方だと、郷土史家の先生は話していた。
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 この後、隣接する墓地を見学した。入口を入ってすぐのところに、お経を納めた塔が建っていたが、その前に小さな穴の開いた石があった。先生によると、この穴をくぐればはしかが軽くなると言い伝えられており、先生も子供の頃何度もくぐらされたという。確かに子供でなければくぐれないほどの大きさである。

 最後に祐天上人の墓を見て、それから裏手の細い道を経て長泉院というお寺へ向かった。ここも祐天寺と同じく浄土宗の寺であるが、祐天寺より五十年後に建てられたので「新寺」と呼ばれているそうだ。また、寺の前の道は古道で、庚申塔が沿道に多いところから「庚申みち」とも呼ばれている。ここは私の荏原の旅で是非とも訪れたいと思っているところである。長泉院へ行く途中の道端にも庚申塔があって、私は一人でワクワクしていた。

 祐天寺も長泉院も、私が居住している目黒区内にありながら初めて訪れた寺であったが、非常に興味深いものであった。

(写真は後日再訪して撮影したものである)



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by ebara_explorer | 2007-11-04 19:10 | 寺院
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